職人技

先日、滋賀県のお客様よりお母様から受け継がれたジュエリーのリフォームのご依頼を頂いた際に約40年以上前に作られたジュエリーを何点かお持ち頂きました。

その中に非常に珍しい指輪がございましたのでお紹介させて頂きます。

 

最近では見かけることも少なくなった、

まさに職人技ともいえるジュエリーでございます。


今から40年以上前と言いますと、

 

当店の店主が京都に錺職人として修行に出ていた頃、

あるいは独立し、齋藤宝石を設立し始めた頃かと思います。

 

当時は現在では一般的となった鋳造(キャスト)などの技術もなく、

あったとしても今の技術に遠く及ばない時代です。

 

多くのジュエリーは私どもが今も行っております、

完全手作りによるものであったと言えます。

 

つまり、本物の腕利きの職人でしかこのようなジュエリーは決して作ることができませんでした。

 

 


当時はロー付けなど今では基本的な部分の環境も今ほど良いものではなかったと聞きます。

そんな環境で一からすべて人の手により作られています。

 

周りを覆うティーパのダイヤのセッティング、

センター石の石座部分もすべて

何か月もかけて作られています。

 

ただ、現在の主流のデザインに比べ、大振りで

若い方様はつけるのに抵抗があるかもしれません。

 

実際、時代と共にデザインや流行りは変化しますし、

恐らくこの指輪をつけてどこかへお出かけとなると

勇気がいるかと思います。

 

今風のシンプルなデザインへのリフォームをお考えになるのも

良くわかりました。

 

ただ、どうしても同じ職人としてこの指輪を

シンプルなデザインの指輪に変えてしまうことに抵抗がございました。

 

現在の宝飾加工技術の環境は先にも述べさせて頂きましたが、

40年前と比べかなり進歩しています。

 

これはどちらかというと

誰でもお手軽に作れるといった方向性に近付いていると

言った方がよいかもしれません。

 

つまり、以前は非常に手間や技術のいることも

お手軽に効率よく作るれるようにと変化してきました。

 

この指輪を作られた方より全体の職人のレベルも進歩しているかと言われれば

そうとは自信をもって言えません。

 

実際この写真の指輪と同じものを作るとなると

出来る職人は限られるのではないかと思います。

 

そのくらい当時の職人(店主の親方の世代)の最高峰の方々の腕はすさまじいものがありました。

 

残念なことにもう再現のできない失われた技術もたくさんあります。



こちらも持ち込み頂いたリングですが、

下側のように一見するとシンプルなデザインのリングにも

昔の職人には遊び心がありました。

 

記右側の写真をご覧いただきますとサイドに唐草模様や横側に透かしを段々に入れていたりします。

 

これもすべて手作業でパーツを作り、指輪にしています。

 

指輪として着けた時には上からは見えないですし、

ある意味隠れた部分であります。

 

つまり、はたからは分からない部分に非常に高度な細工を施していました。

それが職人の遊び心でもあり、粋な部分でもあります。

 

唐草もようなどは手作りだからこそ表現できるシャープさがあり、

ここまで細く、きめ細やかに唐草や透かしを入れるとなると

型流しでは難しく、職人の腕が必要となりますし、

決して安くはありません。

 

 

お母様から受け継いだ指輪などをお持ち頂くと、

時折、

こういった高度な技術が施されているジュエリーを見させて頂くことがあります。

 

確かにデザインという点においては時代の流れもあり、

受け継がれた若い世代の方がそのままつけるには抵抗のあることも

事実です。

 

だからこそどのようにリフォームするのかが大変重要です。

 

壊して、新しく今風にシンプルに作り変えることは簡単です。

ですが、もう一度、先の画像のような唐草や透かしを入れたデザインを

作るとなるとお値段は各段位上がりますし、

そもそもできないところもあるんじゃないかと思います。

 

職人の遊び心 

つまり、自分はこんな高度なことができるんだという

思いを指輪にこっそりかくしている部分ですので

当然誰でもできるわけではありません

 

手作りの指輪だからこそ、

いかにその当時の職人さんの想いを残し、現代風にリフォームするかが大切です。

 

唐草などをのこしてリフォームする場合

昔の物は一本一本ロー付けによって留めていますので

現在、一般的な型(ロストワックス)の段階で唐草模様を調整し、

その型に地金を流すやり方しか出来ない場合、

地金を直接触って手直しが必要な今回のリフォームは

下手に触るとグチャグチャになってしまい、

手を付けられないという場合もあります。

 

私どもはそもそも作り方が当時と同じ鍛造製法による

完全手作りです。

 

唐草を入れる時も同じように一本、一本地金から形成し留めていきますので

当然、こういったデザインの指輪も手直しすることができますし、

当時の高度な技術(良い部分)を残して現代風にリフォームすることも可能です。

 

大切な方様から受け継がれたジュエリー

作り手だからこそわかる当時の高度な技術、失われつつある技術、

既に失われた技術も折角施されていたのであれば、

壊すことなく、同じように受け継いで頂ければと

また、残せていければと願っております。

 

同じようなことでリフォームをお考えの方様いらっしゃいましたら、

是非、一度ご相談くださいませ。





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